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ynkby's blog

正しく考えるというのは難しい

安倍晋三は何を考えているのか 『美しい国へ』

美しい国へ (文春新書)

美しい国へ (文春新書)

 
だれが書いたか知らないが、安倍晋三が再登板したので読み直してみた。今注目されているのは、アベノミクスと呼ばれる経済政策と、彼が右・保守派であるということだ。それらについて何か読み取れるだろうか。

まず、保守主義とは何であるかだが、本書は、「開かれた保守主義」を掲げる。明確な定義はない。過去・現在・未来の人に責任を持つのが「保守の精神」であるとする。郷土への素朴な愛情という点からナショナリズムを捉えなおすことに狙いがあるようだ。

注目すべきは経済政策に触れていないことだ。小泉の後継であるにもかかわらず、構造改革路線を踏襲するのか否かについて何も述べていない。構造改革に反対なのかまではわからないが、その後に郵政改革反対派を復党させたことからみれば、あまりこだわる気はなかったようだ。

最低限度の生活は国家が保障すべきとし、社会保障制度について縷々述べている。なお、セーフティネットと自己責任を重視する社会を掲げているが、自己責任は、その言葉を挙げただけ。何も説明はない。

そして、教育問題に関し、家族や地域コミュニティの役割を重視する。家族のモデルを示さず過激な性教育を行うジェンダーフリーに反発しているが、確かに上野千鶴子はこの時期をバックラッシュの時代としている。

以上のことからみれば、安倍の政治理念は、当然左ではないが、小泉のように市場を重視したものでもない。焦点はモラルにある。いわば伝統的モラル主義だ。例えば、校内暴力や非行問題に対して、個性を尊重する日教組教育を批判し、家庭での躾を重視する。他方、市場原理に対しては、物欲礼賛的な態度を批判する。最近の言葉でいえばグリードだ。国家観は、家族的なもので、家族を扶養するように国民の福祉を重視する。経済についても、パターナリスティックに介入する。このようなタイプの考え方だ。こういった国が「美しい国」なのだ。

軍事も安倍を語る上で避けられない。自衛隊が武力行使できないまま海外派遣されることを嘆き、日米安保は必要と言いながら、安全保障をアメリカ任せにしてきて経済は潤ったが精神的に失ったものも多いと言う。これは、血筋ゆえか、岸と同種の考えである。対米独立と再軍備は、鳩山・岸が取り組んだものだ。前回もそうだったが、今回も安倍はアメリカと大して緊密な関係は築けないだろう。対米独立の血が流れているからだ。民主党時代と比べれば改善するかもしれないが。(安倍が岸に近いのに対して、小泉はむしろ中曽根に近い。アメリカ大統領と個人的に緊密な関係を築いたし、右翼との評判は強かったものの、軍事や改憲に深く踏み込むことはなく、むしろ経済の自由化に重点をおいた。)

ちなみに、今話題の慰安婦問題にも触れられていない。というより、外交については、北朝鮮と中国がほとんどで、韓国にはほんの少ししか触れていない。次に引用した部分のみだ。

「日韓両国はいまや一日一万人以上が往来しているという重要な関係にある。日本は長い間、韓国から文化を吸収してきた歴史を持つ。その意味では、韓流ブームは決して一時的な現象ではない。/わたしは日韓関係については楽観主義である。韓国と日本は、自由と民主主義、基本的人権と法の支配という価値を共有しているからだ。これはまさに日韓関係の基盤ではないだろうか。/わたしたちが過去にたいして謙虚であり、礼儀正しく未来志向で向き合うかぎり、かならずず両国の関係は、よりよいほうに発展していくと思っている。両国の基盤を強化するためにも、EPA経済連携協定)の締結を進めなければならない。」(157頁)

北朝鮮と中国については、北朝鮮には強く出る、中国には政経分離で行くと述べられており、おそらく今も基本的には変わっていないだろう。