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正しく考えるというのは難しい

漢字は日本にこそ似つかわしい  『漢字』

漢字―生い立ちとその背景 (岩波新書)

漢字―生い立ちとその背景 (岩波新書)



日中関係がにぎわっているので、ひとつ漢字から日中の異同を考えてみよう。漢字はもちろん中国起源だ。漢字を見ると、中国に起きた大きな文化的変化を思わざるを得ない。殷周革命ないし天命思想だ。

漢字から白川が描き出す世界は、非常に呪術的、神々の世界だ。「祀」という字から蛇信仰を読み取る。裁判は神判で、神羊が現れる。善とか義に「羊」が入っているのはそのためだ。そして、「風」はもともと「鳳」で風神だ。風は霊的なものの訪れだった。モンスーン地帯の感覚らしい。春の風は命を与え、別の季節には台風となって現れる。

また、漢字には南洋文化が見られるようだ。「文」は刺青のことで、その習俗は北方にはなく、東アジア太平洋沿岸地域のものだったらしい。「朝」は潮水を表し沿海での生活が推測されるという。とすると、縄文人も南洋系らしいので、縄文人と同根だったのかもしれない。

このような文化は殷まで続いた。殷まではアニミズムであった。王は、帝の直系だった。酒に酔っ払い神と合一した。これを大きく変えたのが北方牧畜文化の周だ。周は殷を否定した。特に神とつながる道具である酒を「酒池肉林」と、切って捨てた。そして、王は、徳があり天命を受けたから王なのだということにした。血縁など問題ではなくなった。こうして神々の世界は終わった。とすると、周を理想とする孔子様が鬼神を敬して遠ざけたのは、殷的アニミズムの拒否だったのではないかな。

そして、文字も変わった。「文字は、その成立の当初においては、神とともにあり、神と交通するためのものであった」。「文字が神の世界から遠ざかり、思想の手段となったとき、古代文字の世界は終わった」という。

翻って日本は、今なお神々の世界だ。漢字は取り込んだが天命思想はスルーした。天孫降臨神話が継続中である(これも外来思想らしいが)。そこらじゅうに神様がいるし、神事に酒は欠かせない。要するに、日本は殷なのだ。よって、アニミズムの世界を映している漢字は日本にこそ似つかわしいということになる。漢字は日本をまるで故郷の様に感じているだろう。天命思想で変わってしまった中国など、居心地悪いと思ってるにちがいないのだ。

ところで、白川は、楔形文字が漢字の起源だとする西洋人の説を批判しているが、彼の時代に、より一般的な、文化起源の西部一元論に対する批判的潮流でもあったのだろうか。例えば、農耕文化の中尾佐助も同じようなことを言っていたのだが。