平岩俊司の『北朝鮮』が、北朝鮮が国際環境の変化にどう対応してきたかという視点なのに対し、本書はよりオーソドックスな通史という感じか。
北朝鮮は遊撃隊国家として形作られたが、金正日にはそれが継承されず先軍政治という形になったというストーリー。若き金日成は遊撃隊を率いて日本と戦った。その抗日遊撃隊をモデルとした国づくりを試みる。それを著者は遊撃隊国家と名付ける。つまり、金日成が唯一司令官で国民全員が遊撃隊員という国家。ただそれが、金日成の個人の資質に依っていたため、金正日には受け継がれず、先軍政治となったという。
そんな北朝鮮の日本への態度はどんな感じで変遷してきたか。
1959年からの在日朝鮮人帰国事業があったが、それ以外はこれといったことは特にない。基本的に抗日が国是だから、単なる敵国という感じか。
ただ、冷戦が終了すると日本との関係を模索し始める。90年の金丸田辺の訪朝。こんなことになったのは、ソ連が韓国と国交を結ぶことになったことが大きいようだ。後ろ盾がなくなってあわてたのかもしれない。しかし、この時の日朝交渉は、植民地問題と、拉致されたとされる李恩恵問題で行き詰った。ごたごたしている間に、北朝鮮とアメリカの関係がよくなって終了となった。アメリカとうまくいくなら日本はいいやという感じか。
次に大きなのは小泉訪朝。この時期にはブッシュ政権ができて悪の枢軸とか言われ、さらにイラクでフセインが捕まったりした。こわかったのかもしれない。この時は、拉致事件の実態が日本の思っていた以上にひどくて日本側から北朝鮮はムリ、となった。しかし、北朝鮮側は、もういいやとはならなかった。
一時帰国のはずだった拉致被害者を返さなかったにもかかわらず、第二次小泉訪朝が実現したし、核実験してブッシュ政権から譲歩を引き出したにもかかわらず、あるいは、第一次安倍政権が強固姿勢をとったにもかかわらず、福田政権と交渉を続けていたという。
最初はただの敵国だった日本は、一時帰国という約束を破られても、安倍政権で強固姿勢をとられてもなお関係を模索したい相手になっていた。
たぶんこの流れはなお続いている。第二次安倍政権になって、飯島訪朝とか、猪木訪朝とかがあったりして、北朝鮮との関係が大きなニュースになった。拉致強固派の安倍さんなのに交渉が続いている。短期的には、オバマの無関心とか、韓国の従北政権の終了とか、中国との関係の悪化とかが原因かもしれない。長い目で見れば、強固派の安倍さんとでも関係を築きたい状態になったということか。