本書の著者は、富士フイルムを、デジタルの到来で需要がなくなった写真フイルムから商売替えさせ、成功させた人である。手持ちの技術を使ってどんな事業ができるのか考え、監視カメラ用レンズ、太陽電池用のフィルム、化粧品などに広く手を伸ばしていった。
この商売替えを行うに当たって「VISION75」なる改革が行われ、その一環として、富士フイルムは全国に散らばっていた研究所を集め中央研究所を作った。「富士フイルム先進研究所」だ。異分野を融合させ、新しいものを生み出すこと目標とするという。写真フィルムの技術追及というテーマを絞った研究所設計から、何か新しいものを生み出すための設計に替えたということか。
研究環境にこだわり、実験室を除いて、広いワンフロアぶち抜きのスペースで仕事をするようにした。すぐ横では全く違うテーマの研究が行われているという状況を作り出した。会議室はガラス張り、ミーティングスペースに仕切りはなく、ホワイトボードが置かれている。図書館は、ナレッジカフェと呼び、コミュニケーションの場とした。
異分野を融合させてイノベーションとかいうのは最近はやりの流れだが、ポイントは研究所の設計だ。他の分野と接触せざるを得ない環境を作りだすのだ。大学とかベンチャーラボとかも、これを見習ったらいい。ベンチャーラボとか、単に期限付きの安い賃貸になっていないか?ビジネスが絡んでくると何でもかんでもおおっぴらにするのは難しいだろうが、建物の真ん中に広いラウンジを作ってぺちゃくちゃしゃべれるようにし、そこを通らないと研究室に入れない構造にするとか。とはいえ、著者もこういう研究所を作りましたと紹介しているだけで、おかげでよい成果が出ていますとまでは書いていないのだが。