もっとモット 『世界で勝負する仕事術』
世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記 (幻冬舎新書)
- 作者: 竹内健
- 出版社/メーカー: 幻冬舎
- 発売日: 2012/01/28
- メディア: 新書
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筆者は、東芝に入り、フラッシュメモリの開発にあたった。アメリカにわたってMBAを取得したのちは、フラッシュメモリ・ビジネスの先頭に立って、アップルとかと商談に励んだ。その後、東芝をやめ、東大に移って半導体の開発を続けている。筆者は、日本の半導体ビジネスが倒されていくのを目の当たりにした。技術をどうビジネスに使うかを考えるのをMOT(技術経営)というらしいが、もっとMOTが必要だという。この本が出たのは、筆者が今を時めくフラッシュメモリの開発者であるからか。
フラッシュメモリは、筆者が東芝に入った90年代初めのころは、将来性のない技術としてもっぱらの評判であったという。それが、90年代後半から、デジカメの進化とともに発展を始める。そのデジカメも、2000年代に入るまでに500万画素を超え、もう画質は十分という状態になった。00年代に入ってから、デジカメは、価格競争への道を歩き始める。それとともに、フラッシュメモリは停滞期に入った。500万画素のデジカメには十分対応できる容量は得た。一方、パソコンのハードディスクにとって代わるほどまでの大容量には遠い。他に使える場所もなく、価格競争にはまり込んだデジカメといっしょに、行き詰ってしまったという。
それを変えたのがiPod。05年のiPod nanoにフラッシュメモリが採用された。これでまた開発に拍車がかかり始める。その後、iPhone、iPadと続き、今では、ハードディスクにとって代わりそうだ。HDDに代わってSSDが目につくようになった。HDDのモーターでぼろもうけしていた日本電産は12年にどんと業績を落とすに至り、別の市場にシフトしている。
東芝の小林清志は、自分たちだけで新しい市場を作ろうなどと思わず、画期的な新製品を考え出す人は必ずいるので、その人を刺激し技術の使い道を考えてもらうために技術開発を続けるべき、みたいなことを言ったという。まさにアップルが、フラッシュメモリを活かしたのだ。
活かす人待ちといえば、ノーベル賞の下村脩もそうだ。研究成果というのは、光る物質を取り出しただけだ。それが何の役に立つのかといわれそうなものだ。でもそれを、医学研究に使えるんじゃないと思いついた人がいて、使われるようになった。たぶん、その人が現れなかったら、ノーベル賞なんかもらえなかったにちがいない。
フラッシュメモリも役に立たなかったかもしれない。光る物質も役に立ってなかったかもしれない。結局、基礎研究も、技術開発も、活かす人待ちという点では、同じなのではないか。いや、活かす人待ちの研究が基礎研究で、活かし方がもう決まっているものが応用研究なのだろうか。
どっちでもいいけど、その研究は何の役に立つんだ?など言ってはいけない。何の役に立たせることができるか、ということを考えないといけない。これもMOTの中に入るのだろうか。