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正しく考えるというのは難しい

尖閣忠臣蔵

忠臣蔵 [DVD]

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長年支持されてきた忠臣蔵には、日本人の心性や倫理観の原風景みたいなものが現れているのではないだろうか。

忠臣蔵とは、浅野長矩という赤穂の殿様が、意地悪された吉良義央にキレて、江戸城松の廊下で切りかかったが、あえなく捕まって、切腹、お家お取り潰しとなり、赤穂の藩士は浪人になってしまったという話だ。

もちろんメインはその後の大石内蔵助の仇討ちなのだが、それはともかく、日本人の心性・倫理観から注目したい点は次の通り。

(1)我慢して我慢して最後にキレてとんでもないことをしでかす。
 浅野は吉良の意地悪にとにかく我慢したのだ。そして、土下座して教えを乞うた後、突然切りかかった。日本人は、震災の時にも評価されたように、とにかくGAMANする。ひたすらGAMANする。裏で文句言っても、事を荒立てないよう表には出さないのだ。しかし、GAMANに付け込んでくるやつがいたとき、それへの対処法は知らない。色々作戦を練って仕掛けていく方がいいのかもしれないが、そんな訓練はされていない。ひたすら我慢して、限界が来たらブチ切れるのみだ。

(2)浅野は悪くない。
 とんでもないことをしでかしたにもかかわらず、浅野への悪口は聞かれない。本映画では一か所だけ、「短慮」といった者がいた。内蔵助だ。しかし、これは内蔵助が本心を悟られないよう遊びほうけて酔っぱらっていた時に、いつ吉良を討つのか!と詰問されて答えた言葉だ。しかもこの時、こいつとんでもないことを言いやがったという感じになった。
 つまりこういうことだ。キレたということは屈辱に耐えに耐えたということなのだから、同情すべきであって非難すべきでない。その結果起こった藩の取り潰しなどの被害を云々してもいけない。むしろキレるまで追い込んだ吉良が悪い。
 確かに忠臣蔵だけに、忠の話なのだが、これだけ日本人に支持されたということは、殿様じゃなくてもこういったことに同情する感覚があるのではなかろうか。

ひるがえって尖閣を見るに、意地悪をする中国に石原がキレたの図だ。尖閣に漁船がやってきたというだけではない。以前からガス田開発で意地悪されていたし、しかも南シナ海の方でブイブイいわしてるとの報も入っていた。それに対して何もやり返せずGAMANしてきたのだ。GAMANが限界を超えたのだ。それが原因で中国の日本企業が大ダメージを受けても、あるいは戦争になっても、だれが短慮などど非難できよう。

石原をバカだというやつは、浅野もバカだというだろう。情を解さないやつだ。石原に共感するやつは、浅野に同情するだろう。伝統的日本人だ。

ところでこの映画は、江戸の急を知らせる早カゴが赤穂にやってくるシーンから始まる。かごに乗った使者は、全速力で走るかごから振り落とされないよう必死でしがみつき、舌をかまないよう口に布を加えていた。おそらく赤穂まで不眠不休でしがみついていたのだろう。私がこの役目を仰せつかってたらと考えると空恐ろしい。これ、テレビの企画でやったらどうだろう。チキチキ江戸‐赤穂早かごレースだ。