花火の火花

正しく考えるというのは難しい

Long Tall Sally 貴重な曲だ

 出だしのポールのシャウトがとてつもない。最初のラブミードゥーの時の緊張した声とは大ちがいだ。知らずにボリュームを上げたままこの曲をスタートさせてしまったら心臓が跳び出るくらい驚いてしまうはずだ。そんな人を見たことがある。心臓の弱い人には聞かせてはいけない。ジョンがツイスト・アンド・シャウトなら、ポールはこの曲だ。二人もこんなパワフルボーカルがいるビートルズってほんとすごい。そして、ツイスト・アンド・シャウトと同じく、オリジナルをちょっと変えて、さらにパワーアップした出来にしている。そして、その部分がたいへんに貴重なのだ。
 1つはギターソロだ。オリジナルではブラスが活躍するが、ビートルズではギターになる。で、オリジナルとちがって、ソロは2度ある。ジョンもソロを弾く。You Can't Do Thatと同じく、コードをジャラジャラ鳴らして、弦を2本押さえてチョーキングして、汚い音を出す。一方、ジョージのギターといえば、初期ジョージの激しい系のソロのベストプレイだと思う。音階を上げていく部分はかなり盛り上がる。ジョンとジョージが順番にソロを弾いて、ソロのバトル?的になってるのは、この曲くらいだと思う。ポールも含めて三人ならThe Endでやってるが、それまで待たないといけない。
 そして、エンディング部分のリンゴのドラムだ。この部分もオリジナルとは異なり2回繰り返している。このビートルズの演奏に比べればオリジナルはかなりあっさり終わっているように聞こえる。この最後の部分をオリジナルの100倍、狂ったように盛り上げるのが、リンゴの無茶苦茶に叩きまくるドラムだ。これとポールの叫びが相まって異様な盛り上がりを見せる。このドラムかなりすごいと思うんだが、なんか全然評価されてない気がする。リンゴは過小評価されているとよく言われ、その原因として手数が少ないというのがあるように思うが、叩こうと思えばいくらでも叩けるぜというのがこれでわかる。レインがベストドラムと言われたりしてるが、やっぱりこっちの方だと思う。(あれはテープスピードを落としているためゆっくりになっているが、最近は元のスピードで聞けるようになっている。元のスピードで聞いてもロングトールサリーの方がすごい。)
 サード・アルバム向けに録ったらしいが全曲オリジナルでいくことになって、EP版での発売になったようだ。何にせよ、ギターバトルもリンゴドラムもこの曲でしか聞けない。貴重な曲だ。カバー曲だしアルバムにも入ってないからか、不当に見損なわれてしまってるんじゃないだろうか。

You Can't Do That 不穏な12弦ギター

 Can't Buy Me LoveのB面で、これもサードアルバムに入っている。A面の曲は映画に使われていたが、これは使われていない。それなのに収録されている。セカンドアルバムで始まった、シングル曲とアルバム収録曲を切り離しは、間断なしというわけではなく、基本1回おきになっているようだ。サードアルバムは映画のサントラだし、タイトル曲A Hard Day's Nightをシングルで出さないのも変だしということで、シングル曲をアルバムに収録することになったとして、そうなったらもうシングルB面も入れて全曲オリジナルにしてしまえということになったのだろうか。基本自然な流れだと思う。
 ジョージの12弦ギター初登場である。この時期のビートルズの特徴である12弦ギターは、2つの弦を一緒に鳴らす。1オクターブ高い弦が張られていたりして、普通に弾けばキラキラしたきれいな音になるのだが、この曲の出だしはマイナー調、むしろ不穏な響きになっている。そして旋律もまた不穏である。12弦の初お目見えで不気味な音感を響かせるというのもなんとも言えない。
 ジョンがギターソロを弾くのも初登場だろうか。ジョージが12弦で変なフレーズを弾き続けるので、ソロはジョンが引き受けることになったのだろうか。ジョンのソロは極めてラフだ。コードをかき鳴らし、2本の弦を抑えてチョーキングしてゆがんだ音を出す。かっこいい。ジョンのソロは、次のロングトールサリーでも弾いてるが、そこでもコードをかき鳴らす同趣向のものとなっていて、ジョンの色がでている。
 A面の曲では消してしまったコーラスだが、この曲では素晴らしい効果を上げている。追っかけコーラスと迄言えなくても、コーラスがメインとなって歌詞をぶっ込んでくる場面もあるし、ギータソロのところでの存在感は素晴らしい。こういうのはビートルズならではという感じだ。
 カウベルも初登場ではないか。カンカン4拍子を打ってる。そして、ボンゴの16拍子がポコポコなっている。A Hard Day's Nightでも出てくる2つだが、その先駆けだ。特にカウベルは、女に詰め寄ってる感が迫ってる。この時期の彼ら流行りの打楽器である。
 不穏であるということを除けば、Can’t  Buy Me Loveよりもこの時期のビートルズサウンドをよく表している。このころはジョンの曲が多いから自然とそうなるのかもしれないが。
 この曲とCan't Buy Me Loveは、ドイツ語の2曲と同時期に作ってたのだが、この音作りをみると、もうあの2曲は完全に過去のものになっていたような感じだ。ビートルズはどんどん先へ進んでいたのだ。
 

Can't Buy Me Love ビートルズサウンドの新局面 

 ビートルズの新局面。シングル曲なのにポールがひとりで歌ってる。ツインボーカルじゃない。また、リズムもちょっとブルージーにシャッフル系で、これまでの非常にわかりやすいポップ路線からは少し離れている。そして、ジョンがアコースティックギターをジャカジャカ鳴らすようになった。このジョンのアコギでジャカジャカがビートルズの曲に素晴らしい味を与えるようになるのだ。新局面といったが、一番のポイントはこのジョンのアコギ化だと思う。ついでに、イントロなしのサビ始まりと、ジョージの長めのギターソロもシングルでは初めてだ。 
 ジョージのギターは、この曲あたりから、数本重ねるようになる。一緒に弾くこともあればずらしたりすることもある。一緒にユニゾンで弾けば音が分厚くなる。ソロにはチョーキング3連発のところがあって、長らく気づかなかったのだが、1本のギターで3回チョーキングしているのではなく、2本で交互にチョーキングしていたりする。また、ソロのメロディからは外れてちょろちょろなってる音もあるので、3本は重ねていることになる。
 完成前のテイクも色々出ていて、そこではコーラスを入れたり、ギターで合の手を入れたりしてたが、結局全部なくなってる。ビートルズはよく引き算の美学を言われるが、この曲はそれがよく現れている。ジョージのギターが消えているという点では、ヘイ・ジュードにつながるともいえるかもしれないが、この曲には長いソロが消えずに残っているのでそこまでではない。ハロー・グッバイあたりが相当か。
 実はこの曲、超有名曲なのだが、あんまり好きじゃない。このリズムとテンポが好かないのだろうか。ブルースを意識したポップという路線があまり好みに合わないのか。理由はよくわからない。
 セカンド・アルバムでシングルとアルバムは分離したはずなのだが、この曲はサード・アルバムに入っている。映画のサントラだからという理由があるようだが、それならB面のYou Can't Do Thatはどうなんだという話にはなる。

Sie Libt Dich みんなやらされ仕事

 Komm, Gib Mir Deine Handに続く滑稽ドイツ曲二曲目。この曲にある原曲She Loves Youにはない価値といえば、ステレオバージョンがあることだろうか。しかし、演奏と歌がそれぞれ左右に分離しているだけのビートルズ的ステレオなのでイヤホンではホント聞きづらい。そして、リンゴドラムがだめだ。出だしのドドンドってところの音もなんか滑稽だし、その後の3連部分。ジャッジャ、ではなくて、ジャジャッ!という感じでいかないと。これだけでこの曲の魅力は半減してしまう。
 ヤーヤーヤーの響きも何かちがう。原曲の方がよく響いていると思う。これは歌い手側の問題ではないのかもしれないが。だとすると、ジョージ・マーティン側の話になるのだろうか。随所に感じるやっつけ仕事感。ドイツ語で歌うこの企画に、ビートルズ自身は全く乗り気ではなかったらしく、やる気のない彼らをジョージ・マーティンはどやしつけたらしいが、そのマーティンの仕事ぶりもオリジナルほどではないような感じで、結局みんなやらされ仕事だったということだ。

Komm, Gib Mir Deine Hand  劣化である

 I Want to Hold Your Handのドイツ語版。ひと目見て分かるように、曲名が元のと変わっている。直訳すると、come, give your hand(来い、手をちょうだい)だ。なんでこうなったのかというと、これによって、聞き所の、叫びの部分の歌詞、I Wanna Hold Your Handー!が、ドイツ語でもHandで合うようになるのだ。素晴らしい。ドイツ語直訳ではこうはならない。ひねった曲名に変えたかいがあるというものだ。だったらもう一つの聞き所、I can't hideの部分もなんとか合わせてほしかった。einmal soになっていて、ハーではなくゾーになっている。母音くらい合わせられなかったものか。残念である。やっぱりオーよりアーの方が響き的によいと思う。
 演奏はもとの曲の演奏がそのまま使われているらしく、カラオケらしい。それでか音質が悪いような気がする。しかし、全く演奏してないかといえばそうではなさそうだ。歌の合の手で入ってくるギターが一本ある。これはオケには入っていなかったようで、この歌録りのときにいっしょに録ったんだと思う。原曲ではトラック数なんかの関係で録りきれなかったのだろう。で、これなんだが、どうしても原曲と比べてしまうのだが、音も滑稽だし、音量のバランスも悪い。浮いたような、悪目立ちというか、そんな感じになってる。このギターがこの曲の印象をすごく悪くしてる。ということで、この曲は、音質が悪い、ギターも変の、基本手抜きの劣化版であって、ドイツ語で歌ってるという資料的価値しかない。でも、それだけで十分かもしれない。ビートルズはやる気なかったらしいし。それでも、ドイツではヒットしたらしいし。
 やる気がなかったわりには、ステレオ版とモノラル版が作られていて、ステレオがよいのかというと、演奏と歌が右と左で分離したビートルズおなじみのやつでイヤホンで聞いたら聞きづらい。この分離具合は原曲よりもひどい。正に劣化である。音の分析でもするならともかく、イヤホンで聞くならやはりモノラル版である。

This Boy  三人ハモリ・バラードの最初

https://youtu.be/naOG4X2ZH9s?si=yKYHTMr-sEKW9Rjz

 

 I Want to Hold Your HandのB面。三人のハモリが美しい。歌が始まると「おお!」と驚いてしまう。Ye It Is、そして、Becauseへとつながる三人ハモリ・バラードの最初の曲。三つともジョンの曲というのは、三人を動員するバンドの要はやはりジョンということか。Yes It IsとBecauseの間が空いているのは、Yes It Is以降、ジョンがありきたりなポップスみたいな曲に興味を失ったからとか、バンド内の関係性が変わったとかが原因だろうか。Becauseは最後だからということでもう一度やったのだろう。
 ボビー・フリーマンの「You Don't Understand Me」が元ネタらしくて、聞きいてみると納得だ。三人でハモってる曲ではないが、リズムとか構成、ポールの弾くベースもこれが元になっているといわれて全く違和感ない。三人ハモリでAメロ歌うのは、前のアルバムのChainsでやっている。なので、フリーマンとChainsをあわせてこの曲になったということである。
 三人ハモリができるロックバンドは、ゴスペルみたいなのをやってるグループを除いて、古今東西なかなかないんじゃないか。日本のアルフィーが浮かぶ。アルフィーも貴重だ。
 サビでジョンが叫ぶ盛り上がりがある。さすがにジョンの声は素晴らしくて、ここでみんな惹きつけられるのではあるが、跳ね上がり具合が異常の域に達してる。彼女を思う感情の強さは気が狂うくらいなのだということなのかもしれないが。宇多田ヒカルのAddictied To Youなんかもサビで突然狂ったように歌い出したりするのを思い出す。あれもaddictの症状ということなのだろうか、
 邦題は「こいつ」。つける必要あったのだろうか。A面に邦題つけたからB面にもつけたんだろうか?「こいつ」といって自分のことを指すわけで、日本語的に不自然なのだが、じゃあどうするといわれれば、これ以上よいものが思いつかない。ただ原題のThis Boyより自己卑下感、失恋して投げやりになってる感が強くなってしまってるような気もする。よくわからないけど。邦題がちがった味を加えるのは確かで、歌詞のあるポップスは標題音楽ではあるのだが、邦題はもう一つ標題を加える感じになり、影響は大きい。ノルウェーの森なんか典型で、あの邦題があの曲に独特の雰囲気を加えている。「こいつ」は今では消えてしまっている。不要と判断されたのだろう。それでいいと思う。ただ「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」が消えてしまったのは悲しかった。

I Want to Hold Your Hand マージービート完結

 この曲はマージービートの完結編だ。マージビートが何なのかという話はあるのだが、ジョンとポールのツインボーカルというのを挙げたい(それは単に初期ビートルズということだけかもしれないが)。シングル曲について見れば、Love Me do以来、ジョンとポールのツインボーカルだった。ハモったりハモらなかったりしながら、2人いっしょに楽しそうに歌ってた。それがこの曲で最後となる。この曲では基本ハモりながら歌い進んで、展開部では1回目はユニゾンで2回目はハモリでと変化をつけた形になってる。
 この曲のポイントといえば、音の跳ね上がりだ。I wanna hold your ハーー!で跳ね上がる(この部分でリンゴの洗練された版のNot A Secnod Timeドラムが聞ける。聞かせ所である)。オクターブ上がる。そして、展開部の最後の3回の I can’t ハー!でもまた上がる。ジョンは3回とも同じ音の高さを繰り返すが、ポールの3回目は1段上がって盛り上げる。ポールの高音面目躍如である。やしきたかじんがこのアイキャンハーを聞いて衝撃を受け、レコード店に駆け込んで、アイキャンハーの歌くれ!とか言ったとのエピソードもある。昭和38年の年の終わり頃発売。日本でかかりだしたのはいつからかは知らないが、東京オリンピックを控えた当時の日本には、こんなテンポの速い高音ボイスでハモり叫ぶ曲なんてなかったのかもしない。この高音ハモリ叫びで若者の心をとらえたのだろう。
 邦題、「抱きしめたい」は、言い過ぎではある。映画の邦題なんかも、原題と全く違うものをつけたりした時代ではあるようで、「ビートルズがやって来るヤァ!ヤァ!ヤァ!」はその最たるものだと思うが、直訳すれば、手をつなぎたいだ。カタカナそのままでは長すぎるので邦題をつけることになったが、「手をつなぎたい」では曲名として弱すぎるので「抱きしめたい」になったのではないか。しかし、時代柄、手をつなぐことは抱きしめるくらいのインパクトはあったのかもしれない。手をつなぎたいというだけで、ここまで高音ボイスで盛り上がるなんて、ビートルズはなんて健康的なのか。まさにスーツにマッシュルームカットの真っ当なアイドルだったのだ。