- 作者: 中川恵一
- 出版社/メーカー: ベストセラーズ
- 発売日: 2012/01/07
- メディア: 新書
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東日本大震災で原発事故が起こった。本書は、その後の日本の状況を見て、放射線について正確な情報を提供しようという企図から書かれている。一気に大量の放射線を浴びると、細胞が死んでしまったり、白血球が減少したりするが、現在の福島の放射線の状態はそれほどではなく、そのレベルで問題になるのは発がんだという。
著者は、発がんのリスクと避難のリスクを比べている。飯館村へ行き、放射線量を測り、発がんのリスクは野菜不足や塩分の取りすぎなどよりも低いとし、避難先でストレスを抱えながら暮らす方が心配だという。特に、特別養護老人ホームにいる80歳を超える入居者を体育館などに避難させたりするのはよろしくないという。
チェルノブイリの過剰避難問題についても触れている。ロシア政府の報告書を引いてきて、避難によって逆に命が削られるという見解を紹介している。見知らぬ土地での孤独、仕事が見つからないことによる不安など、ストレスが原因のようだ。
避難すべきかどうか。どうも今はやりのQOLがポイントになるのではないか。それは、例えば、がんなどの病気に対して、クオリティ・オブ・ライフ、生活の質という観点から、つまりちゃんとした生活ができるかという点から、どう治療していくかを決めようとするものだ。拷問のような苦しみを与える治療を受けさせていいものかとか、治療は完遂し命は取り留めたが死んだ方がましだったというようなことになったら意味がないんじゃないかとか、そういうことから発達してきた。病根撲滅しか考えないのはマッドだよということだ。乳がんなんかでも最近は全部取り尽くすということはしないようだが、これもQOLの観点からのようだ。
寿命が伸びなくても、よりちゃんとした生活をおくれる方が大事かもしれない。むしろ、ストレスとか生きがいとかの関係で、QOLをよくすれば寿命が延び、悪くすれば縮むことになるかもしれない。
避難とは、激烈な抗がん剤を投与するようなことなのかもしれない。とすると、QOLを考えない避難命令は、無慈悲ながん治療に同じなのだ。