- 作者: 榎本まみ
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2012/09/22
- メディア: 単行本
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カードを使ったがカード会社にお金を払ってない人に電話をかけ、払っておくれと伝える。カード会社のコールセンターで毎日繰り広げられていることだ。法律などにより、直接出向いて金を回収するのが難しくなって、電話で勝負するのが主流になったらしい。
もちろん電話に出てくる相手からは色々なことを言われる。怒鳴られる、人を不快にさせる仕事などやめなさいと説教される、今から殺しに行くと脅される。それに耐え、さらに金を払うよう仕向けなければならない。
色々テクニックがある。怒鳴り声に耐えるテクニック、ストレスを楽しみに変えるテクニック、怒らせないようスムーズに話を進めるテクニック。
そんな中に、声自体のテクニックがある。
初期延滞の客には、高い柔らかい声で電話を掛ける。うっかり支払いを忘れてた客も多いので軽い感じでいく。一方、長期延滞の客には、低い声で電話を掛ける。こちらは金を払ってないことはわかっている客なので、なめられないよう緊張感を漂わせるのだ。
殊日本では、声の調子を自在に操れることは特に有効なのだ。一説によると、日本人は、声に敏感らしい。相手の印象は、声→顔・服装→体格の順で決まる。対して、母国語が異なる人が多く暮らす欧米では、相手の表情・しぐさの方が大事なのだ。
なぜだろう。イントネーションは言語によりさまざまだから、母国語が異なるしゃべり手の声の調子からは、その人となりを読み取るなどできないのかもしれない。それはともかく、日本人が声に敏感なのであれば、コールセンターあるいは自動音声サービスの出来不出来は、他国よりも如実に結果に反映されるということになる。
ということであれば、日本で声優というのが一大職種として定着したのも、たぶん日本人が声に敏感だからだ。コールセンターと同様、アニメや吹き替えも、舞台などでの演技とは異なる、声だけで勝負する世界だ。たぶん日本人の声へのこだわりに応えるために、独特の声の技が編み出され、専門職種として独立してしまうまでになったのだ。
声優人気がすさまじいのも、声に敏感だからだ。たぶん声への思い入れが他国の人に比べ異常なのだ。声優人気は、日本のアニメ人気を支え拡大させたものの一つだ。結局、アニメが日本で発達したのは、日本人が声に敏感だからなのだ。民族的特性に原因がある。