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正しく考えるというのは難しい

宮崎駿はサン・シモン的ノスタルジー 『シトロエンの一世紀』

シトロエンの一世紀―革新性の追求

シトロエンの一世紀―革新性の追求

 

シトロエンの特徴は、前衛・革新的な量販実用車にあるという。確かに、前衛的でエキセントリックなイメージが強い一方、フェラーリとかのように非日常にぶっ飛んだ超高額少量生産のクルマではなく、大衆車を作り、日常生活で役に立つかが追及されている。

 

革新性と大量生産へのこだわりは、創業者以来のものだ。創業者はアンドレ・シトロエンで、当時のサン・シモン主義の空気で育った。資本主義を肯定し、科学技術の進歩が豊かさと平和を生むと考える。ユートピア社会主義といわれたりもする。

 

その教えの下、シトロエンは科学技術の革新を重視し、社会を豊かにすべく歯車製造のビジネスを始める。この歯車が今のシトロエンのマークだ。そして、第一次大戦の時に、砲弾の量産を始め、戦後、自動車へシフトした。

 

どういったクルマを作ろうかと考え、以前からヨーロッパにあった高級車ではなく、これからの時代を見据え、大量生産の大衆車を作ることにした。大量生産は当時それ自体が革新的なものであった。

 

この精神がアンドレ・シトロエンがいなくなった後にも継承された。そして、大衆性の極みは2CVとして、前衛・革新の極みはDSとして現れ、目下、現行シトロエンのCラインとDSラインに受け継がれていると著者は描く。

 

その2CVファンとして有名なのが宮崎駿だ。2CVに大衆の生活が豊かになる空気を感じ取ったのかもしれない。ラピュタの企画書には、機械が機械の楽しさを持つ時代、科学が人間を不幸にするとは思われていない時代とある。これはサン・シモン主義の時代にちがいない。

 

左翼的な主張もある。ナウシカを作ってエコロジーでも有名になった。しかし、機械を捨てるのかというと、なんだかんだ言いつつ、そんなことはできない。そして、映画では、古き良きサン・シモン主義のノスタルジーを描くのであった。